EL34ドライブEL34シングルアンプの製作

人気のトランス結合アンプに「佐久間アンプ」がある。

千葉のレストラン、コンコルドのマスター佐久間駿(ススム)氏の作るアンプだ。佐久間アンプがどんなものかを説明することは難しいが一言でまとめると「佐久間駿氏がコンコルドの店内でお気に入りの音楽を聴くために作るアンプ」である。

特徴はほぼ全段がトランス結合になった回路構成、モノーラルシステム。プリ(フォノ)アンプ + パワーアンプかプリメインアンプが基本である。真空管はほとんどが直熱管、それも送信管を使う。プリ-パワー間の接続はプリ側から 16オームか 150オームの不平衡トランスで出力し、これをパワー側の 150オームの不平衡トランスで受け取る。ボリュームは 100オームを使う。電源回路には入念にチョークトランスを使う。フィラメント回路にチョークトランスを使うこともある。トランスはほとんどタムラ製である。配線材は ACコードを裂いて使う。アース母線は家電用アース線を使う。信号部と電源部のアースを分けた 2点アース方式である。コンデンサはオイルコンか電解コンしか使わない。パッと思いつくだけでもこんな特徴のアンプである。

トランス結合アンプはマイノリティであり、佐久間アンプの人気が高いことからトランス結合イコール佐久間アンプと思われてる方も多いだろう。確かに佐久間アンプはトランス結合アンプの極みの一つではあるがそれ以外のトランス結合アンプの音も聴いてみたいと思うことがある。

佐久間アンプではドライバー管と出力管に同じ真空管を用いる構成が多い。

前述の通り佐久間駿氏は直熱管/送信管を好んで採用するため、ビーム管や五極管が用いられることはあまりない。昔は起用していたこともあるが最近の作例では見かけない。

そこで私が好きな EL34/6CA7 をドライバー管、出力管に採用しトランス結合するアンプを作ってみようと思う。

コンコルドとは違いプリアンプとの接続に通常のインピーダンスで使えるように入力はトランスを使わず CR結合とする。三極管接続した EL34 をトランス負荷で動作させトランスで昇圧、出力段の三極管接続 EL34 を駆動する。

段間トランスは名古屋のエイトリックトランスフォーマーに特注で巻いてもらった 1:4 (6.25kオーム:100kオーム) 75mAdc(1次側)を使う。出力トランスはエイトリックのシングル用標準品、7k/5kオームE-10-57S を使う。

この特注インタステージトランス、出力トランスとほぼ同じ大きさといういかにも良い音がしそうなトランスに仕上がった。右のコアが少し厚い方が出力トランスの E-10-57S で左が特注の段間トランス。

電源トランスはエイトリックの標準品、N-150 を使い ROHM の SiC SBD、SCS210KG を使って両波整流する。エイトリックのチョークトランス C-5-200 を使った PI型フィルターを通し B電源とする。コンデンサは 47uF/800V の SHIZUKI RUZ を使うがもし容量が不足するようであればほぼ同サイズで日本ケミコンの RWE330uF/550V か KMM560uF/450V があるのでそちらに変える。

EL34 のヒーターは交流点火で使うがトランスの中点に約35V のバイアスを掛ける。ヒータは 2管を直列にして 12.6V で使用する。

部品点数は少ないがノイズ源となるチョークトランスとノイズに弱い段間トランスが並ぶのでケースのレイアウトは難しい。タカチのアルミサッシュケースOS44-20-33BB にギリギリ並ぶくらいのサイズになった。

通常、B電圧の回路は電源トランスの 0Vタップをアースに接地し高圧タップから整流ダイオード、電解コンデンサ、チョークトランス、再び電解コンデンサを介して信号系に供給するように作る。整流ダイオードやチョークトランスは回路的にはアースから浮いているためどこに挿入されていても動作するが実装を考えると部品の外装には対アースの電位が掛かっている。高圧が掛かったまま電子部品を長年使うと部品がホコリで汚れてくる。

ここで発想を逆転し電源トランスの 0Vタップから高圧を取り出し、高圧タップを逆向きに整流する回路を考えた。この回路では回路的にはよくある整流回路と同じだが実装では部品の外装がアースに近い電位になる。ただし電源トランスはアースから浮く状態になるため整流直後のリップル電位で振られることになる。これは問題ないだろう。実装時の問題としては 0Vタップイコールアースと勘違いして触ってしまう恐れがある。またダイオードや電解コンデンサなど使用する方向が決まっている部品の取付方向を間違う恐れがある。この辺は電源トランスにメモを書くことで回避したいと思う。(0V→400V、300V→?V)

実際に組んでみたところ 280Vタップを使いチョークトランスの前で 348Vdc (+ リプル3Vac)、チョークトランスの後で約340Vdc/82mA が得られた。

経験的に EL34 を三極管接続し負荷6.25kオームでグリッドバイアス-30V で使うと電圧ゲインは約6.5倍(=16dB)くらいになる。負荷5kオーム、グリッドバイアス-25V で使うと電圧ゲインは約8倍(=18dB)くらいになる。段間トランスは巻線比1:4 なのでゲインは 4倍(=12dB)、出力トランスは巻線比25:1 なので 0.04倍(=-28dB)、損失などを無視すると回路全体で前段16dB + 段間トランス12dB + 出力段18dB - 出力トランス28dB = 18dB の電圧ゲインになる。

EL34三極管接続の Ep-Ip特性図上にロードラインをひいてみた。薄い紫が負荷6.25kオーム、グリッドバイアス-30V時のロードライン、薄い青が負荷5kオーム、グリッドバイアス-25V時のロードラインである。

カソードパスコンを付けずに電流帰還を掛けるとゲインが減る。各-4~5dB くらいか。トランスの損失もある。段間トランス、出力トランスとも -1dB くらいと仮定すると回路全体のゲインは 18dB - 5 - 1 - 5 - 1 = 6dB くらいになる。実測すると入力段11.8dB、段間トランス10.5dB、出力段13.4dB、出力トランス -29dB くらいで合計 6.7dB になった。

これだと回路全体のゲインが低くて使いづらいのと初段カソードパスコンが無いので交流点火してるヒータからのハムを拾ってしまう。とりあえず組み上げただけの回路で実測すると 25mVrms くらいのハムが出てる。

対策は 2通り考えられる。カソード抵抗にパスコンを抱かせゲインを上げるとともにハムをアースへ逃す方法。もう一つがカソードをアースへ落としてグリッドに C電源からバイアス電圧を掛ける方法。

まずは簡単にできる前者で試してみた。初段のカソード抵抗 800オームに 47uF を並列にしたとき、ゲインは約5.9dBアップしハムは 15mVrms に減った。

同様に出力段のカソード抵抗 400オームにも 47uF を並列にすると、ゲインはさらに約3dBアップしハムは(簡易測定の)測定限界まで減った。

これは調子が良さそうだと考え、初段のカソード抵抗を 700オームにし電解コン220uF を並列にしたところゲインは約6dBアップしハムは 13mVrms になったがしばらくするとモーターボーディングが起きてしまう。これはトランス結合で初段と出力段が同相になっていたため起きたと考えられる。(CR結合アンプでは初段と次段が逆相になるので起きにくい)

電源のリップルなどで初段のプレート電圧が低下すると初段プレート電流が減少し初段プレート電圧がさらに下降する。初段プレート電圧が下降すると出力段グリッド電圧が上がり出力段プレート電流も減少する。という何かのきっかけで電圧が下がりだすと一気に動作が不安定になる正帰還状態になりこれは逆の向きにも起きうるので極低周波数で発振が起きる。

モーターボーディングを止める最も簡単な方法は初段と出力段の位相を反転させてしまうと簡単だ。段間トランスの巻線と出力トランスの巻線をどちらも逆に接続することで解決する。

もうひとつの方法、C電源を用意して固定バイアス動作とする方法を試す。電源トランスにヒーター用の 6.3V/1A と 5V/3A のタップがあるのでこれをシリーズ接続して倍電圧整流して得られた約-30V を V1 のグリッドに接続する。SiC SBD だと順方向電圧降下が 1.5~2.5V と大きいため電圧降下の小さい Si SBD を使う。初段カソード抵抗は 100オームだけ残しパスコンとして 3,300uF/50V を並列にする。この場合、最初の回路に対してゲインが約5.1dB 上がりハムは 13mVrms になった。

前述の低周波発振の現象をモータボーディングと決めつけて解決した気でいたが、実は問題は違うところにあった。この時は周波数が下がっただけで実際にはモータボーディング(のような現象)はまだ続いていた。

B電源と回路を切り離し B電源に適当な負荷を与えてその電圧をオッシロスコープで確認する。抵抗負荷なのでキレイなリプルだけが重畳した波形が出るはずである。しかしリプル以外に不穏な動きをする波形が出てくる。

周波数としては 10Hz 以下だがサインカーブなどではなく突発的に電圧が上がったり下がったりする。この現象の原因は SiC SBD を使った整流回路とその後の平滑回路の組み合わせにあった。SiC SBD は 1,200V を超える耐圧がありこの耐圧を持って真空管アンプの B電源用として採用が可能になったが、SBD である欠点まで消えたわけではない。SBD は原理的に逆回復時間が無いが漏れ電流はあってその性質がPN結合ダイオードとは異なっている。原理は違うが回路的には逆電流が流れこれがかなり突発的な特性になる。

SiC SBD に逆電流が流れることでコンデンサは放電し、電圧が下がる。電圧が下がって逆電流が流れにくくなると再びコンデンサの電圧が上がる。これが繰り返され、不穏な電圧の動きになる。

もうひとつ、コンデンサとチョークコイルの共振がある。47uF と 5H の組み合わせでは約10Hz で共振が起きる。コンデンサの直列インピーダンスが低いこともあって共振が起きやすくなってしまう。この 2つの現象が組み合わさることで B電源の電圧はダンスを踊るように上下にピョコピョコ動くのである。

これは似たようなモデルを使ったシミュレーションの解析結果である。青い線が電圧(左の軸)、緑の線がダイオードに流れる電流(右の軸)を表してる。電流は見づらいと思うがサイクルごとに異なる電流が流れていることはわかる。電圧の動きが不穏に見えるが実際の回路も似たような動きをする。

この現象は素子の特性によるものなので対策は難しい。整流回路をコンデンサインプットからチョークインプットに変えるとダイオードに流れる電流がなだらかになり不穏な動きは減るが、得られる B電圧が低くなってしまう。あまりよい解決法が思い浮かばずこの点は場当たり的な対処になってしまった。(他のアンプではこの現象は起きないんだろうか?)

特注トランスの仕様は巻線比1:4、インピーダンス 6.25K : 100K、1次側 75mAdc というシングル用出力トランスの二次側が高インピーダンス受けになったような構成になっている。

初段を出力段並の動作点でも使えるように 75mAdc 仕様にしたが実際にはバイアスを深いところで使っているので 25~30mAdc 程度で使用している。

2次側は出力管のグリッドにつながるのでインピーダンス整合のために抵抗器でシャントする。抵抗器を 330Kオーム、100Kオーム、75Kオーム、56Kオームと変えた時の周波数特性の変化を測定した。周波数はトランス単体ではなく回路を組んだ状態でアンプの出力を測ってる。

まずはマッチングが取れてない 330Kオームの場合。1kHz以下は問題ないが 3.3kHz で -1.4dB、10kHz で -5.1dB となる。100Kオームに変えると 10kHz で -4.1dB、75Kオームで -3.6dB、56Kオームで -3.4dB になった。インピーダンスを下げたほうが高域の特性が伸びるがトランス一次側のインピーダンスも下がりゲインが減る。音質との兼ね合いで 75Kオームで使うことにする。(1次側インピーダンスが 4.7Kオームになる)

出力管1本、ドライバ管1本だけのシンプルなアンプなのにトランスが立ち並ぶ。EL34 の三極管接続シングルアンプ、電源電圧は約370V と低め、出力トランスのインピーダンスは 5Kオームと高めなので出力は 4W程度だろう。

余談だが EL34 の三極管接続時の Ep-Ip特性図、とてもキレイな特性になったものがでまわっている(私が所蔵している真空管関連の本にも記載されている)があの図は実際の特性とはかけ離れている。実測すると上でのほうで示した図の通り、低電流の領域で直線性が悪く、グリッド電圧Eg に対する直線性もそれほどよくはない。シングルA級の動作例として挙げられているプレート電圧Ep=375V、ゼロ信号時プレート電流Ip=70mA、バイアス-25.9V、負荷3.5Kオームは実際にロードラインをひいてみるとわかるが若干プレート損失25W を超える、もしくはギリギリである。そもそもゼロ信号時に 375V x 70mA = 26.25W なのでロードラインをひくまでもない。スクリーングリッドの損失5W も見込んでいるのかもしれないがあまりにギリギリである。ギリギリな動作例から三極管接続シングルA級で 6W が得られると思われてる向きもあるがプレート損失から余裕を見込んで動作点を設定すると 4W が得られればよいと考えて設計したほうが良いだろう。プレート電圧Ep=370V、ゼロ信号時プレート電流Ip=65mA、バイアス-26V、負荷5Kオームあたりが推奨値。閑話休題。

回路全体で 400V x 100mA = 40W、ヒータで 6.3V x 1.5A x 2本 = 19W、計60W を消費し続けて得られるのはたったの 4W、三極管A級アンプはなんと効率の悪い仕組みだろう。

エイトリックトランスフォーマーの電源トランスN-150、300V-280V-0-280V-300V(150mA)、6.3V-2.5V-0(2.5A)2回路、5V-0(3A)、6.3V-0(1A)と B電源用が少し低電圧めだがヒーター用の容量がきちんと確保されていて使いやすい。6L6系プッシュプルモノーラルか 6L6系シングルステレオ、6V系(12AX7、12AU7 など)前段、5V整流管(5AR4 や 5U4G など)という構成に使いやすい。

トランス類は M4 のボルト&ナット、ブロックコンデンサと US8ピンソケットは M3 のボルト&ナットで取り付ける。ピンソケットは 10mm の絶縁スペーサを共締めし 1L4P のラグ板を付ける。

シャシーの内部寸法が 37mm しかないので 10mm の絶縁スペーサ + ラグ板では寸法がギリギリになる。部品の取り付けには気をつける。

まずは電源トランス1次側とヒーター回路、B電源を配線し電源回路が動作するか調べる。ここが動かないと以後の回路のチェックができない。ヒーター回路は 6.3V/2.5A巻線を直列に接続し、12.6V/2.5A線として使う。EL34 を挿して電圧をチェックするとピッタリ 12.6V が出てた。B電源はまずは低圧側の 280V へ接続する。動作が問題なければ 300V タップへ繋ぎ直す。

SiC SBD は 1L4P のラグ板へ配線する。このラグ板も 10mm の絶縁スペーサを使ってブロックコンデンサの M3ボルトに共締めしている。

ゲインは 6dB あればいまの環境で鳴らす分には音量が足りないことはない。しかしそれは強力なプリアンプを使っているからであり、このままでは環境を選ぶアンプになってしまう。もちろん、今のソース機器は 2.5Vrms程度の高レベルでライン信号を出力しているのでパッシブアッテネータだけ使ってもゲイン的には十分だろう。しかし汎用的に使おうと考えるとゲイン 20dB は欲しい。

出力段の EL34 はスピーカをドライブするものなので内部インピーダンスを下げる必要があり三極管接続が必要になる。しかし初段の EL34 は出力段をドライブするだけなので内部インピーダンスが高くなっても使えるかもしれない。初段のみ五極管として使うことにした。

B電源から 10Kオームを介してスクリーングリッドへつなぐ。これで若干の SG帰還が掛かった五極管になる。スクリーングリッド電流は 6.3mA、スクリーングリッド電圧は B電源 - 60V になった。

初段のゲインが 26.7dB になり回路全体のゲインは 21.6dB になった。周波数特性も測定した。

60~2.5kHz(-3dB) といったところだろうか。いくらゲインが高くてもこれでは実用にならない。歪み率特性も測定したが最小点でも 3.5%以上あった。

結局初段は三極管接続に戻し固定バイアスもやめて自己バイアスに戻した。ゲインが足りない分についてはタムラ THs-30 を入力トランスとして接続する。THs-30 は一次側600オームCT、二次側60Kオームと既成品の入力トランスとしてはかなりゲインが高い部類に入る。これで軽々 20dB近いゲインが得られる。

入力インピーダンスが 1Kオーム程度と低くなってしまうので前段には強力なプリアンプを必要とする。いまの環境ではスピーカを鳴らせるドライブ力を持ったプリアンプを使っているので問題ないが市販のプリアンプとの接続は難しいかもしれない。CDプレイヤと接続するときはヘッドフォン出力を使う。

現時点での暫定回路はこちら。実機では R8 の 330Ω(20W) は 100Ω(5W)巻線3本になってる。残留雑音が大きいことは課題として残るが音質面ではほぼ安定してきた。

トランスは THs-30(600CT:60K) を TPs-5S(600CT:10K) に変えた。これでゲインが約11dB になる。

最大出力は 4.5W、これはほぼ計算通り。最大出力時の入力レベルは 0.27V。ゲインは入力トランスで約11dB、回路で約16dB、合計して約27dB。

周波数特性は 20Hz~8kHz(-3dB)。20kHz で -8dB。トランス結合、オーバオール無帰還アンプなのでこんなものだろう。ダンピングファクタは約2.3(1W、8Ω、on-off法)

このアンプ、未完のままながら 2015年6月20日に開催された手作りアンプの会 2015年夏お寺大会に出品した。13台の競作となりその中で「アンプビルダー賞」を頂くことができた。テーマが「非オーディオ真空管アンプ競作」だったのでオーディオ用真空管の代表格、EL34 で出品したのは少々テーマ違いだったかもしれない。

(続く)